2007年11月22日
研究会では、民法第708条の但書きの改正のほか708条の2を判例・学説による改正案として研究会で、提示されていたが、改正には至らなかった。
旧第708条 不法ノ原因ノ為メ給付ヲ為シタル者ハ其給付シタルモノノ返還ヲ請求スルコトヲ得ス但不法ノ原因カ受益者ニ付テノミ存シタルトキハ此限ニ在ラス |
[判例・学説による改正案] |
現代語化後 民法第708条 不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。 |
708条では、但書きの改正のほか708条の2を判例・学説による改正案として研究会で、提示されていた。
大審院の時代は、708条但書きを厳格に解し、給付者に不法があれば当然に返還を認めなかった。ところが、最高裁の時代になると、給付者と受益者の両者の不法性を比較して、受益者の不法性が大きければ但書きを適用して、給付者への返還を認める。
改正案が「主として」としているのは、判例が「主として男性《受益者》にあり、女性《給付者》の側における・・・不法の程度に比し、男性《受益者》の側における違法性が著しい」ときに返還を認めたもの(判例の事案は損害賠償を認めたもの)があり(最判昭和44・9・22民集23-9-1727)、これを参考にしていると思われる(改正案の説明文からは判然としない)。ただし、改正案の説明においても 「改正が望ましいと思われるが、表現の仕方はかなり難しい。現行法からこのような解釈を導き出せるという考え方もありうるため、なお検討を必要とする」としている。
現代語化において研究会が提案した708条の2は、物権的返還請求権を制限する規定である。Xが不倫関係を維持するために家屋をYに贈与したが、その後、仲が悪くなり家屋の返還を求めた事案で、最高裁は、贈与が公序良俗に反し無効でありYに所有権は移転しないが、Xの贈与に基づく履行行為が民法708条本文のいわゆる不法原因給付に当たるときは、Xは自己の物としての返還の請求ができないとしたものがあり(最大判昭和45・10・21民集24-11-1560)、これを条文化したものであると説明されている。
なお、改正案の説明では次のことが加えられている。「この条文をおくのは、物権的返還請求権についての規定が置かれた場合に限られる。また、規定の位置も、物権的返還請求権のところのほうが妥当であろう」としている。すなわち、708条の2は例外もしくは特則の規定で、所有権に基づく物権的請求権の一つである物権的返還請求権の本則が設けられなければならないとしているのである。しかし、本則については、研究会の審議メモでは具体的に設けようという話は出た記録はない。
16回の研究会で、708条やその他の懸案事項について「①物権的請求権への民法708条の準用規定を置くか(物権的請求権の規定を置くかの問題を含む)、②安全配慮義務の規定を置くか、③原理原則が置かれていない規定についてこれを補充するか、④定義規定を置くか、⑤損害の拡大等に関する過失相殺についての判例・学説による改正案を採用するかに関しては、将来の民法改正時の検討課題とし、今回の現代語化に当たっては、いずれも見送ることとする」という審議結果になっている。なお、708条但書きについては、第三次案作成過程において問題となった点として17回に結論が持ち越されている。
そして、17回の研究会の審議で「708条ただし書の判例・学説の改正案は、このような比較衡量は一般的な解釈手法として行われているものであり、適切に条文化することが困難なので、解釈にゆだねることとして、採用しないものとする」して、改正案として採用されなかった。
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