もう少し詳しく 詐害行為取消権(債権者取消権)1

もう少し詳しく

詐害行為取消権(債権者取消権)1

2010年3月16日 

詐害行為とは?

債権者は,債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる(民法424条1項)

設例
債務者Xは,唯一財産である甲土地を債権者Yに譲渡し,さらにYはSにその土地を売却した。債務者Xには,他に債権者A,B,Cがいる。そして,Xは乙に対して債権を有している。

総説

債務者Xが他の債権者Aらの甲土地の差押さえを免れるためにYに仮装譲渡した場合,これは詐害行為ではありません。この場合は,譲渡が仮装であり,互いに土地の譲渡に関しての意思(Xのその土地を譲りたい,Yの譲り受けたいという相対する意思)が無いのですから,民法94条の通謀虚偽表示の問題になり,この取引は,取消しではなく無効となります。

詐害行為取消権で問題となる事案は,XとYとの間に債務を弁済するために甲土地をYに譲渡する,Yは債権回収のために甲土地の譲り受けたいという互いに確たる意思がある場合です。しかし,唯一資産である甲土地をY(受益者といいます)に譲渡してしまえば,他の債権者A,B,Cは,Xへの債権回収が困難になり,他の債権者は債務の弁済を得られず害されてしまいます。

詐害行為取消権は,債務者が唯一資産(責任財産),つまり,債権者の最後のよりどころとなる責任財産(設例では甲土地)を減少させ,債権者が満足のいく弁済を得られなくなることで,そのことにより受益者以外の他の債権者が害されることを債務者が知って行った法律行為を取消す事ができるのです。

要件
詐害行為であること

債務者が,唯一資産の甲土地に他の債権者のために抵当権設定,地役権の設定があります。抵当権によって抵当権者が他の債権者よりも優先して弁済されることになりますし,地上権や地役権などの用益権の設定は,土地の価値を下げることになるので,これらの行為は,詐害行為になります。さらに不動産を消費しやすい金銭にかえることも詐害行為になるとされています。

また,債務者が有する他の債務者の債権の放棄,債権譲渡の通知は,債務者が有する債権という権利を放棄することによって責任財産を減少させる行為につながります。すなわちXが乙に対して債権を放棄する行為や,乙に対する債権を他の者に譲渡する行為は詐害行為ということになります。

財産権を目的とする行為であること

詐害行為取消権は財産権を目的とした法律行為に限り,財産権を目的としない法律行為の取消はできません。問題となるのは,相続や婚姻という身分行為を伴うものです。たとえば,資産があるZが死亡しXが相続人である場合に,Zの財産を相続すればXは責任財産が増加します。しかし,Xはこれを放棄してしまいました。これを取消すことができるかという事案で,最高裁は,「これを既得財産を積極的に減少させる行為というよりはむしろ消極的にその増加を妨げる行為にすぎないとみるのが,妥当である。また,相続の放棄のような身分行為については,他人の意思によってこれを強制すべきでない」と判示し,債権者の介入を否定しました(最高裁昭和58年12月19日民集37巻10号1532頁)。

ただ,身分行為でも離婚に伴う財産分与は詐害行為になるとした判例(最高裁平成12年3月9日判決民集54巻3号1013頁)と詐害行為にならないとした判例があります(最高裁昭和58年12月19日民集37巻10号1532頁)。

財産分与が詐害行為とならないとした判例は,「分与者が既に債務超過の状態にあって当該財産分与によって一般債権者に対する共同担保を減少させる結果になるとしても,それが民法768条3項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり,財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情のない限り,詐害行為として,債権者による取消の対象となりえない」と判示したのに対し,詐害行為とした判例は「不相当に過大な部分について,その限度において詐害行為として取り消されるべきものと解するのが相当である」と判示し,違いは,社会通念上,財産分与の額として妥当かどうかです。

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