2024年3月2日
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2023年(令和5年)9月に桜通線がダイヤ改正により、主に日中が7分30秒間隔から10分間隔に減便されました。また2024年3月に鶴舞線が同じく主に日中が7分30秒間隔から10分間隔に減便されます。
本稿では、ネットにある情報を切り抜くのではなく、名古屋市交通局に筆者が足繫く通って集めた情報により、減便の真実に迫ります。
鉄道の運営状態を見る指標に『営業係数』というものがあります。JRの赤字路線の廃止の話題の際によく聞く単語です。営業係数というのは、100円の利益を上げるのにいくらの費用が掛かったのかというものです。計算式は、路線営業費用÷路線売上高×100です。
データは名古屋市交通局提供
2019年会計年度において、桜通線を除いて営業係数が100円未満で黒字収支であることがわかります。しかし、2020年のあのコロナで緊急事態宣言による学校の休校、夜や休日の繁華街から人の姿が消えました。そして、その後、職場や学校ではリモートが進み電車を使う機会が少なくなりました。
これを営業係数でみると、対前年比が桜通線で134%増、鶴舞線で139%増、東山線で136%増、名城線で144%増で、つまり桜通線では100円の利益を上げるのに159.3円の費用がかかる状態になりました。この営業係数が100を超える状態が2022年度まで続きます(2023年度の決算は2024年10月)。
付言しますと、名城線に関しては、このタイミングでホーム柵の設置と、ボタンを押すと自動で加速して、駅の手前で自動で減速して停止位置で停車するATO(自動列車運転装置)による運行が始まり、その設備の減価償却、つまり会計上、設備の費用を設置した会計年度に全て計上するのではなく、使用を開始した年度から何年かに渡って費用配分されます。その年が2020年度からなのでコロナの時期と重なっているため、特に営業係数が高くなっています。
では、なぜ営業係数が全ての路線で100を超えるのか? それは前述のコロナ渦による利用者の減少です。
上記のグラフによれば1日あたり383,000人の利用者が減少、1年で1億三千万人の利用者が減ったことになります。しかし、コロナ渦で利用者が減ったのは他の鉄道会社でも同様ですし、また営業係数もJRの赤字路線のように営業係数が2,000円というところもあります。
名古屋市交通局は、1966年(昭和41年)に累積欠損金72億円、不良債権61億円となり財政再建団体として再建を至った経緯があります。
財政再建団体というのは、最近では有名なのが北海道の夕張市で、国の指導・監督の下、財政再建計画を策定するものです。名古屋市交通局の財政再建時の様子はわかりませんが、夕張市の例では、必要最低限の住民サービスの事務継続に限られ、小中学校は統合され、東京 23 区が収まる広さがある夕張市で小中学生は路線バスによる遠距離通学を余儀なくされ
、財政破綻の一番の被害者は将来を担う子どもたちなのではないかとも言われ
ています。
出典:『地方自治体の財政再建 - 夕張市』(参議院HP)第二特別調査室 加藤 智子66P
現在の財務状況ですが、一つの指標としてみるのが自己資本比率です。「えっ、名古屋市交通局って名古屋市がやってるんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、名古屋市とは独立した会計で地方公営企業法に則ってほぼ一般の企業と同様の会計処理がされています。また更に鉄道とバス事業とそれぞれ独立しています。ですので名古屋市の老人が使用されている敬老パスも名古屋市から交通局に利用料が支払われています。
話は戻りますが、資本比率の計算式は下記になります。
自己資本比率(%)= 自己資本÷総資産×100
これを2022年度の名古屋市交通局(高速鉄道事業)の財務諸表で計算すると資産が6,331億円、資本が資本金3,028億円、剰余金▲2,029億円、つまり資本金の合計が990億円となります。これを先ほどの式で計算すると自己資本比率は15.8%となります。
では、一般企業では自己資本比率がどのくらいあるかというと業種により違いがありますが15%~50%です。他方で同様の企業体、東京都交通局(高速電車事業)の場合、資本金が3,881億円、資産が1兆4,912億円で自己資本比率は26.0%。福岡市交通局(高速鉄道事業)は、資本金が409億円、総資産が3,777億円で自己資本比率が10.8%でした。
なぜ自己資本比率に着眼するのかは、あくまで一般の企業ですが自己資本率が高い場合、借入金の返済負担が少なく融資を受けやすいという点があります。つまり、自己資本が高いということは、それだけ返済能力に余裕があり経営が優秀であることを意味しますし、自己資本はイコールそれだけの資産があることを意味しているので、返済が滞っても資産の売却などで補填ができます(あくまで一般企業の例)。
これらの情報を加味すると名古屋市交通局(高速鉄道事業)の財務状況は可もなく不可もなくと言えるでしょう。
財務状態は先ほど申しました通りで財務状態が非常に悪いわけではありません。では、なぜ減便になったのか? 結論から申しますと、桜通線は利用者の減少です。2022年のコロナショック以降、利用者が減少しており減便により混雑率を調整したとのことで、後述しますが、収益や利便性は考慮していないとのことでした。また、鶴舞線はホーム柵の設置によるものです。
まず、東山線から2022年にダイヤ改正がされました。ただ、1分程度の間隔が空いた程度なので殆ど気になりませんでした。その次にダイヤ改正されたのが桜通線です。
桜通線では、今池~吹上間の上下線(徳重→太閤通が上り)と名古屋~国際センター間の上下線の2019年と2021年が比較されました。なぜこの区間がサンプリングされたかというと改札機の入出場の多いのがこの区間とことです。
このデータでは、一部区間でコロナ渦の2021年の方が増えているところもありますが、全体的に1割から2割程度減少しています。この混雑率を特に日中は高くしたいとのことでした。ただし国土交通省が150%未満になるようにと指針を示しているので、それを下回る範囲で調整したとのことでした。
では、一体どのくらいの混雑率が理想か尋ねたところ、全ての座席が埋まっている程度、80%(混雑率の計算は、座席数とつり革が含まれます)が良いとのことでした。利用者としては空席があった方が利用しやすいと思いましたし、営業努力・経費削減でカバーしてほしいと感じました。
また、桜通線は、過去に徳重開業前は中村区役所(太閤通)~野並間で運転しており野並で折返し運転が可能です。つまり野並止まりと徳重行きで運転分離ができるわけで、これについて検討したか尋ねたました。
昔、東山線で星ヶ丘で折り返す運転がされていた実績があり話は出たが、全ての名古屋市民にあまねく公平にサービスを提供する公営企業の理念から適切ではないと判断されたとのこと。
次に今年の3月に改正される鶴舞線です。鶴舞線は上りが塩釜口~八事間(赤池→上小田井が上り)、下りが御器所~川名駅間の混雑率が用いられており、一番ピークの混雑率が高い区間がこの区間とのことでした。
鶴舞線は、2021年と2023年(桜通線は2021年のデータ)の混雑率が用いられています。これは、ダイヤ改正が鶴舞線にホームドアの設置が決まったことを契機にしているからで、混雑率を上げることが主たる目的ではないからです。
鶴舞線は今年の4月以降、順次可動ホーム柵が設置されます。ホーム柵が設置されると停車時間が10秒程度長くなり赤池~上小田井間で3分程度運行時間が長くなるので、そのためにダイヤ改正が必要だったという点があります。そこでダイヤを改正するのなら、減便して混雑率を上げようという事でした。
減便でいくら削減効果があるのか、または収支予測などをしたのか尋ねたところ、そうした試算は行っていないとの回答でした。
ただ、私の今回の取材のために簡単な試算を示していただきました。
桜通線の場合、2022年の決算ベースで運転手一人のワンマンで人件費が45,000千円、その他の経費で主に動力費(電気代)になりますが、73,000千円で合計が118,000千円の削減。一方、鶴舞線は運転手と車掌のツーマンの運行なので人件費が2倍の90,000千円でその他の経費は、電車の削減本数がほぼ同数なので同程度の金額とのこと。
なお鶴舞線は、ホームドア設置後も桜通線、東山線、名城線で導入されているATO(自動列車運転装置)の導入は、諸般の事情(諸般の事情は察してください)により導入されることは無く、従来の手動運転により運行されるため、運転手と車掌のツーマンが継続されます。
桜通線 | 鶴舞線 | |
人件費 | 45,000 | 90,000 |
その他の経費 | 73,000 | 73,000 |
削減額合計 | 118,000 | 163,000 |
桜通線 | 鶴舞線 | |||
2022年の実際の収支 | 削減された場合の試算 | 2022年の実際の収支 | 削減された場合の試算 | |
路線別売上高 a | 11,494,462 | 11,494,462 | 15,008,251 | 15,008,251 |
営業費用 b | 15,550,951 | 15,550,951 | 15,448,712 | 15,448,712 |
削減効果 c | 0 | 118,000 | 0 | 163,000 |
営業収支 a-(b-c) | ▲ 4,056,489 | ▲ 3,938,489 | ▲ 440,461 | ▲ 277,461 |
営業係数 (b-c)÷a×100 | 135.3 | 134.3 | 102.9 | 101.8 |
減便しても営業係数は約1円の効果しかないようです。また、注意しなければならないのは、人件費は直ぐに効果が出るものではないのです。すなわち減便したからといって人員削減で早期退職などを募らない限りは人件費はどこかで発生する訳で、長期的に職員の採用人数を抑制することで、はじめて効果が発揮されるものなのです。
地下鉄、市バスも含めた名古屋市交通局の将来の経営ビジョンというものがこれから数年についてどうするかは語られていますが、これから20年先、50年先どうしていくのか、その時の名古屋市交通局のあるべき姿が示されていません。
最近、上前津駅のリニューアル工事、各駅のトイレのリニューアル工事とあちらこちらで行っていますが、本来、これらの工事は、何十年も前から計画的に実施されるべきものです。
一度にこうした工事を行うと何に問題があるかと言うと、減価償却費が発生し路線収益を低下させます。そうすると営業係数が悪くなります。つまり集中してこうした工事が行われることで来年度以降に極端に収益が落ち営業係数が悪くなるという数字が表れてしまいます。
これらは、第20回アジア競技大会やリニア中央新幹線の開業を見越しての事と思われますが、別に2005年の愛知万博のときから今まで殆ど手を付けてこなかった投資を、今になって帳尻合わせのようにやる必要はないわけで、必要な費用支出とそうでない費用支出の取捨選択ができいないと言わざるを得ません。
トヨタ自動車は、創業から100年を迎え現在を大変革期として、これから100年先の自動車の未来を見据えて新しい商品の開発に取り組んでいます。これは当然、会社なので商品を売らなければならないということが根底にありますが、自動車製造には膨大な生産設備の投資と維持費を必要としており、投資をしてその投資を回収しなければなりません。
この回収のためには、小手先で何かをやって商品を売っても投資の回収ができないばかりか、負の投資となってしまいます。すなわち「これからはEVだ」とEVに投資をしても、10年先、30年先はやはりハイブリッドの方が魅力かもしれませんし水素自動車が主流になるかもしれません。そうするとEVの投資を回収できなくなります。それこそが長期的な将来を見据えたビジョンが必要になのです。
それは鉄道事業も同じで、莫大な建設費と設備、車両の購入(鶴舞線は1編成7億3千万円)とその維持費が必要であり、これらの投資を鉄道を利用してもらって回収をしていかなければなりません。
その莫大な設備の投資を回収、維持してより良いサービスを提供するには、小手先ではなく長期的視野とミクロの視点ではなくマクロの視点が必要です。これから日本全体の人口は減り、高齢化が進み職員不足が懸念されています。そして路線の延伸計画は全て凍結され既存の路線に活路を見出そうとするならば、名古屋市の魅力ある街づくりを市バスを含めどうしていくのかとう視点から考えていかなければなりません。
東京の小田急電鉄や東急電鉄は、鉄道を敷設して沿線の宅地開発をし利用者を増やして行きました。ですから、どちらも不動産会社を持っています。そして、駅から遠いお客のために路線バスを沿線に有しています。
名古屋市交通局は、公営企業なので直接、不動産開発は難しいですが、名古屋市が音頭を取って新しい沿線の街づくりをやらなければならない事です。それがこの経営計画書には欠けており、地に足が付いていないという印象を受けます。
名古屋市やその近郊は、世帯毎の自動車の保有台数が他の都市に比べ非常に高く、このことは利用者が地下鉄が不便だと感じた場合、即車移動に移行してしまうことを意味しています。
鉄道のダイヤは商品です。一般の企業であれば商品に変更を加える場合、それが市場(利用者)にどのように影響するのかや収益にどのように影響するのか議論が交わされるところです。今回、取材をしてその辺りの議論が交通局内でされていなかったことが残念でしすし、この事が、名古屋市議会で取り上げられていないことにとにも疑問を感じました。
そして、あまねく広く公平にという公営企業の理念に縛られ将来性の展望のない事業を続けると、2005年の当時の小泉首相の郵政解散のように政治パフォーマンスに利用される危険性があります。株式会社は株主が口を出しますが、公営企業は政治家が口を出します。つまり「民営化をすればもっと良いサービスが提供できて、税金が節約できる」と選挙に利用される危険性があるのです。公営が良いか民営が良いかは結果論で将来の事は誰にもわかりませんが、目先の数字に捕らわれずその辺りも認識した上で、地下鉄の将来の経営ビジョンを見据えたサービスを展開していただきたいです。
今回のダイヤ改正で日中は、7分30秒間隔から10分間隔というわずか2分30秒の差ですが、この時間を長いと捉えるか否かは個人差があるとは思います。今後の動向を注視していきたいです。
了
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